本記事では「給与前払いサービス」の導入について解説します。昨今、求人の募集要項に「給与前払い可」と掲載される事例が増えていますが、具体的にどのようなメリットがあるのか、法的に問題はないのか、と疑問を持つ採用担当者の方も多いでしょう。
給与前払いサービスが注目されている背景を踏まえ、仕組みや法律面、導入ステップなどの注意点に加え、「週払い・日払い」との違いについても詳しく触れていきます。
給与前払いサービスとは?仕組みを解説

「給料の前払い」とは、従業員が働いた分の給与を、本来の支給日よりも前に受け取れる仕組みです。「前払い」という名称ではありますが、「すでに対価となる労働を終えているが、支払日が来ていない」分の賃金を支払う形になります。
まだ働いていない分の給与を貸し付ける、いわゆる「前借り(借金)」とは明確に異なるのがポイントです。また、給料計算の締め日が1日単位であっても即日払い(当日支払い)とは限らない「日払い」や、1週間単位の「週払い」とも区別されます。
給料日前に勤務した分の賃金を、従業員が申請したタイミングで受け取れる制度をシステム化したものが「給与前払いサービス」であり、大きく分けて以下の2つの型に分類できます。
立替型
サービス運営会社が一時的に給料を立て替えて支払い、後日、導入企業が立替分を精算する仕組みです。最終的に雇用主が支払う点に変わりはありませんが、前払い発生時に自社のキャッシュフローが変動しないため、財務状況を安定させたまま導入できるのがメリットです。
直接払い型(デポジット型)
導入企業の自社資金(デポジット)を事前に用意して、システムを通じて早期払いを行う仕組みです。一見すると自社対応と変わらないように思えますが、専用システムを介することで、従業員からの申請があるたびに経理担当者が振込手続きを行う手間を省ける(自動化できる)点が大きな利点です。
給与前払いサービスは違法?法律(労働基準法)との関係

給与の支払いには厳格な法律が関わるため、導入にあたって慎重になるのは当然です。結論から言えば、正しく運用されている限り、給料前払いが法に触れることはありません。
労働基準法には「賃金支払の5原則」があり、本来は「(1) 直接・(2) 全額・(3) 通貨で・(4) 毎月1回以上・(5) 一定期日」に支払う必要があります。しかし、労働基準法第25条(非常時払い)では、「出産、病気、災害などの非常時の費用に充てるための請求」があった場合、既に行った労働に対する賃金を支払期日前でも支払わなければならないと定めています。これらが給与前払い自体が問題にならない根拠の一つとなっています。
また、「貸金業法」との関係についても、給与前払いは借金(融資)ではなく、あくまで「既労働分の対価」の受け取りであるため、貸金業には該当しません。ただし、「給与ファクタリング」のように、従業員の賃金債権を第三者が買い取る形をとるサービスは違法と判断されるリスクが高いため、導入するサービスの仕組みを正しく見極めることが重要です。
企業が給与前払いサービスを導入するメリット

給与前払いサービスの導入は、従業員だけでなく、企業側にも戦略的なメリットをもたらします。
採用力の強化
最大のメリットは、求人の応募率向上です。求職者にとって「日払い・週払い・前払い可」という条件は非常に魅力的なフックとなります。給料前払いサービスを導入すれば、企業のキャッシュフローを急激に圧迫することなく、求職者ニーズに応える魅力的な募集要項を作成できます。
離職率の低下
急な出費が必要になった際に、会社が用意した仕組みで適正に資金を確保できることは、従業員にとって大きな安心感(エンゲージメント向上)に繋がります。特に働き始めの金銭的負担を軽減できるため、アルバイトなど新人スタッフの早期離職を防ぐ効果が期待できます。
経理業務の負担軽減
自社で個別に「前払い対応」を行おうとすると、申請のたびに振込作業や給与計算の調整が必要になり、経理業務がパンクしてしまいます。外部サービスを導入することで、これら一連のフローを自動化でき、担当者の工数を大幅に増やすことなく給与前払い制度を運用できます。
企業が給与前払いサービスを導入するデメリット

メリットの反面、以下のデメリットについても理解しておく必要があります。
コストの発生
当然ながら、システムの利用料や振込手数料(従業員側が負担するケースもあり)が発生します。月額固定費がかかるものから従量課金制のものまで様々ですが、求人広告費や採用単価の削減分と照らし合わせ、コストパフォーマンスを見極める必要があります。
資金繰りの管理
特に「直接払い型」を導入する場合、随時引き落としが発生するため、専用口座にデポジットとして一定の余剰資金を確保しておく必要があります。自社の支払いサイクルと照らし合わせ、無理のない運用プランを選択することが重要です。(立替型の場合はこのデメリットはありません)
理解しておきたい「従業員側」のメリット・デメリット

従業員側にとっても、メリットばかりではありません。導入時には適切な周知が求められます。
- メリット: 金融機関やカードローンなどの借金に頼らずに済む。スマホアプリ等で適宜申請できる利便性
- デメリット: 振込手数料などを従業員が負担する場合、実質的な手取りがわずかに減る。支給日の手取り額が減るため、計画性が必要
求人掲載時やサービスの説明時には、これら従業員側の視点も理解した上で、正しくメリットを伝えることがトラブル防止に繋がります。
給与前払いサービスの選び方・比較ポイント

サービス選定の際は、以下の3点に注目しましょう。
手数料体系
企業負担と従業員負担の割合を自由に調整できるか、月額固定費と従量課金どちらが自社に適しているかを精査します。
導入・運用のしやすさ
工数を減らすためには、現在利用している「勤怠管理システム」や「給与計算ソフト」とデータ連携ができるかどうかが、運用工数を左右する最大のポイントです。
支払いスピード
従業員が申請してから着金するまでの早さを確認しましょう。「最短即時」を謳うサービスは、急ぎのニーズを持つスタッフからの満足度が非常に高くなります。
給与前払いサービス導入までのステップ

導入を検討する際は、まず自社の課題(応募数なのか、定着率なのか)を明確にしましょう。その上で、以下のステップで進めます。
- サービス選定: 複数社から見積もりを取り、連携の可否を確認する
- 規程の整備: 就業規則や賃金規程に「前払い制度」に関する規定を追加する
- 従業員への周知: 利用マニュアルを配布し、手数料などの仕組みを説明する
不安な点があれば、導入前にサービス運営会社の担当者に相談し、自社の運用フローに合わせたカスタマイズを提案してもらうのがスムーズです。